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「通行量信仰」を克服せよ

 都市経営コーナーにおいて、認定基本計画に基づく活性化の進展状況の各都市による自己評価の検証を行っています。
目下、個別・青森市の報告を分析中です。

 作業をはじめてあらためて痛感したのは、中間評価の目的の設定を間違うと、活性化の取り組み自体がとんでもないことになってしまうと言うこと。
中間評価は、基本計画に設定されている数値目標をめぐって行うわけですが、問題は数値目標の性格です。

 そもそも基本計画において数値目標は、どのように設定されたかと言いますと、
①中心市街地活性化の目標を掲げる
②目標の達成状況を把握するための「数値目標」を設定する
という段取りで決められているはずです。

 いくつかの目標が掲げられ、それらの達成状況を把握するための数値目標が設定されているわけですが、
①目標はどう決定されているか
②目標と数値目標の関係はどうか
というところに重要な問題があります。
例えば、「商業の活性化」という分野において活性化を実現するために取り組む各種・各般の事業の「一体的な推進」で実現をめざす目標はどのような具体性をもって決定されているか?
という問題があります。

 さらに、この目的とこれを受けて設定される数値目標との関係をどう考えるか、ということも問題でありまして、数値目標は、
①目標実現に向けた努力目標か
②目標の達成状況を測定する尺度か
というように設定の仕方で役割が変わります。
これは重要なことです。

 多くの基本計画の場合、特に商業の活性化に関する数値目標は、②の活性化の進展状況を把握するという機能として考えられており、「通行量」及び「販売額」として設定されています。
すなわち、数値目標としての「通行量」は、達成すべき努力目標ではなく、達成状況を把握するための道具だという位置づけです。

 そこで問題。
「通行量」は商業活性化の進展度合いを測るための尺度として適切かどうか?

 数値目標として「通行量」を設定している基本計画は多いのですが、設定にあたって“何故「数値目標」として通行量を選択するのか”ということについて納得のいく説明をしているものはありません。
「商業の活性化といえば通行量」という迷信がありまして、まあ、迷信が機能するのはそれが迷信だと理解されていないことが条件ですから、関係各方面では迷信だとはまったく思われていない、というか今さら検証する必要もない客観的な事実だと思われているわけです。

 商業の活性化の進展度合いを測定するには「通行量」を測定すればよいというわけでありまして、ご承知のとおりほとんどの認定基本計画において、「通行量」が数値目標として選択されており、かつ、“何故通行量を活性化の進展度合いを測定する尺度にする根拠”はまったくしめされておりません。

 さて、当サイトでは“中心市街地活性化の取組において「通行量」は努力目標になり得るか、通行量ってそんなに商業の活性化と密接に関わりがあるのか?”
ということについては、これまで何度も検証しています。
当社の見解は、“通行量は努力目標としては不適格だ”ということに尽きます。このことに議論の余地はありません。

 他方、基本計画における目標数値は「活性化を実現するための努力目標」ではなく、“活性化の進展度合いを測定するため”に設定されているとすれば、話はちょっと違ってきます。
あれこれの活性化努力を総合した結果は、「通行量」に現れる。活性化努力の成否を把握するには通行量を測定すればよい、というのが後者の立場です。
この場合、掲げられる数値は“これを達成すれば活性化が実現できる”という「目標」ではなく、“達成努力の成果はここに現れる」という努力の結果を測るための尺度ですね。

 通行量を増やすための取組としては、
①域内居住人口を増やす
②商業以外の都市機能(特に集客施設)を充実させる
③商業施設を開設する・空地空店舗を活用する
④イベントに取り組む
などが挙げられています。
これらの取組はそれぞれ「通行量の増加」をもたらすことで「商業の活性化」に寄与する、と考えられています。
その根拠としては「商業は立地産業」「交通量の多いところは商業にとって好立地」という迷信があるわけです。
ちなみに、通行量を重視する藻谷氏の「商業はまちの花」という「理論」は、この迷信を言い換えているだけですね。

 中心市街地の通行量は、ちょっと考えてみただけで次のように分類することが出来ます。
参照:「中心市街地の客相」
ここで「客相」と言っているのは、「中心市街地を歩いている人たちの歩行目的」です。
この「客相」が上記の「通行量増大策」に対応していることを確認してください。

 さて、「通行量の増大」は、図にあるような様々の通行目的を持った歩行者を一律に数え上げて「通行量」として一括するわけですが、さて、この数値の増減をもって「商業機能の盛衰」を把握することが出来るでしょうか?

 ということが問題でありまして、これはハッキリ出来ませんですね。例えば中心市街地に高度な機能を備えた私立図書館を作れば、通行量は飛躍的に増えます。
その増えた通行量を「商業の活性化が進展した証拠」として扱うことが出来ますか?
ということですね。イベントなどについてもしかり。
居住人口、マンションの竣工件数などももちろん。

 ということで、商業の活性化の進捗状況を把握する尺度として「歩行者通行量」を設定するのは、ハッキリ間違いです。通行量が増えたからといってそれが即商業の活性化に結びつくものではなく、まして、多くの基本計画が誤解している“通行量は商業活性化のバロメーター”ということはゼッタイにありません。

 “商業は立地産業、その成果は店前通行量に左右される”
というのは、商店街全盛時代の商店街の情景描写ですが、根本的に間違っておりまして、当時の商店街の情景は“商業は集客産業であり、店前通行量は商業の努力の結果である”という経験則から説明しなければならない。
すなわち、当時の商店街の通行量を実現していたのは「買い物の場」としての商店街の魅力が吸引していた、(参照図における)「遊歩客相」だったのです。

 商店街活性化に関わる通行量とは、この「遊歩(ショッピング)客相」でありまして、この客相を増大するためには「魅力ある買い物の場」の再構築が不可欠、遊歩以外の通行客相をショッピング客相に変身させるにもこのことは絶対条件です。

 ということで、商業活性化を実現するために達成をめざすべき目標は「魅力ある買い物の場措定の再構築」だということになります。これ以外には考えられません。

 この場合、設定される「数値目標」は、「魅力ある買い物の場」を実現するために、達成しなければならない具体的な下位目標のうち、数値化することが可能であり、かつ、数値化することで達成努力の目標として適格であり、試行される実践の可否を評価する尺度としても機能する、という性格を持ったものでなければならない。

 というように考えますと、「通行量」などを恣意的に設定するのはまったくの「筋違い」だということになります。
特に、マンションを建て、図書館を作り、ホテルを誘致し、イベントを行う、といった取組をもって「通行量の増加」を実現しようという企ては、本末転倒しているといわざるを得ない。
「魅力ある買い物の場としての再構築」の努力、その数値目標はもっと直接的に再構築の成否を左右するものを設定しなければならない。
例えば、当社流商人塾の開催回数とか、受講者数とか、経営革新に取り組む店舗数とか、所定の繁盛店の定義をクリアした店舗の数とか。

 商業の活性化のその時々における進展状況の把握は、通行量を見ることでは不可能です。(念のために言っておきますが、「小売販売額の増加」もダメ)
当社の経験では、「魅力ある買い物の場措定の再構築」のスタート段階では、繁盛店は着実に生まれますが、それと相関して「通行量の増加」が顕著になることはありません。
目に見えて通行量が増えない段階でも繁盛店は次々に生まれる、というのが「魅力ある買い物の場」づくりの経験です。

 フォローアップの報告では、多くの都市が「通行量」を数値目標に掲げて各種事業に取り組んで来たわけですが、現段階での実績は、ほとんどの都市が基準年度の数値を下回っています。つまり、「通行量の増加」を目標に各種事業に取り組んできたが、現状通行量は減少するばかり、ということです。しかし、状況判断としては、今後計画している事業を展開することで計画終了段階での目標数値のクリアは可能である”と根拠のない楽観的な見通しが述べられています。
実現できる保証はまったくありません。

 さらに百歩ゆずって通行量の目標数値が達成されたとして、それがどうした、従来的事業に取り組んでいる間も商店街の「買い物の場」としての機能は劣化の一途、通行量が増えたころには商店街は「仕舞た屋通り」になっている、というのは極めて見やすい商店街の将来像ではないか。

 ということで、中心市街地・商店街の活性化がいつまで経っても成果が挙がらないのは、目標及び数値目標の設定という計画作成段階・理論段階に大きな欠陥があるから。

 特に「通行量」=“小売業は立地産業・通行量の多いところが良い立地だ、商店街衰退の原因は通行量が減ったら・活性化するためには通行量を増やさなければ”という迷信二基づく取組は、たとえ通行量の増加を達成してもゼッタイに初期の成果=商店街の活性化=魅力的な買い物の場としての再構築を実現することは出来ません。

 基本計画の中間総括はまたとない機会、全都市の報告について原本まであたって「通行量と商業の活性化」の現状を検証してみられることをお奨めする次第です。

 通行量と商業活性化の関係を簡潔に。
 こうしている間も商店街を中心に通行量は減り、空店舗は増加しているわけですが、一体、今現在、通行量は何故減っているのか?
あらためて考えてみていただきたい。

①中心市街地の人口は減っていない、一部では増加に転じている都市。
②図書館や大型商業施設を設置したらその周辺の通行量が激増している都市。
しかし、商店街への回遊はほとんど見られず、商店街の通行量は減少するばかり・・・。
商店街の通行量は何故減少するのか?

 特に渡り廊下=通過道路としての機能を果たしていない商店街の場合、商店街を取り巻く街区環境に変化が無くても商店街の通行量だけは減少します。この場合、通行量減少の原因は「街のなか」にあることになりますが、それは一体何でしょうかね?

 ということで、本気で商店街を活性化したかったら、通行量を増やすとか、新規のお客を集めるとかを云々する前にやらなければならないことがあるわけですが、「通行量という神話」を信奉している間は、とうてい、効果のある取組に向かうことは出来ません。

 「交通量神話」からの脱却、今年度の合い言葉にどうでしょうか。


※今日の過去記事:『簿記はお好き?』
 ご承知のとおり、企業会計の世界には『企業会計原則』というのがありまして、新・自由主義猖獗の過程は、この原則がグダグダにされるプロセスでもあったわけです。
当サイト、なかなか会計制度レベルには踏み込めないのですが、言いたいことは山ほどありますW
ごく一部の人を除き、ほとんど全部「グローバルスタンダード」に振り回された会計学者、公認会計士、アナリストの皆さん、その後ちゃんと「総括」に取り組んでいますよね?

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  • Author:情報創発研究所
  • 【キラリ輝く繁盛店づくり】
    お客に見える店づくり―見える化をテーマに【個店の繁盛】から【商店街活性化】、【中心市街地の商業集積としての再構築】まで一貫した取組を支援します。
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