「買い回り品と最寄り品」

ちょっと基礎的な話ですが。

 買い回り品:アメリカでは Shopping goods といいます。(ちなみに最寄り
品はConvenience goods、 専門品はSpeciality goodsです)
 もともとshoppingは「買い物」だけではなく、「下見」や「ひやかし」という意
味も持っています。ウインドショッピングなどといいますね。買い回り品とは、
下見や他のショップを見て回ったり、といった「比較」「吟味」を伴う買い物の
ことです。代表的な品種ではファッションが挙げられます。

 日本における「買い回り品」には面白い歴史がありまして、昔、専門店の
商品にはいまのような価格表示がありませんでした。値札は付いていたので
すが、それは言い値、実際には「符丁(数字をカタカナに置き換える)」で書か
れた価格が「販売したい価格」でした。
したがって店側が想定している適正価格はお客には分かりません。
実際の売買価格はお客と店の駆け引きで決まったのです。お店としては交渉
に備えて「言い値」は高く設定、交渉のなかであらかじめ決めておいた価格で
決着するようにします。
もちろん、設定よりも高いレベルで折り合えば万々歳、商売上手だったわけ
です。

 これに対抗するお客の方は、当時から「正札販売」を標榜していた百貨店
に立ち寄り、おおむねの値頃を把握してから専門店でのショッピング(価格
交渉)に臨みました。
 また、交渉でだいたいの取引価格が決まったらちょっと他の店を見てくる、
といって他店の値頃を調査、その結果をもって再び来店、場合によっては
もう一度価格も交渉する、という煩わしいプロセスを経てやっと買い物が
出来る、いうこともあったでしょう。

 「買い回り」とは欲しい商品を探してショッピングするという意味ですが、
かっての日本では別の要因も加わって買い回りという購買行動があった
わけです。
 今でも田舎のおばあさん達は二言目には「いくら負けてくれるの?」と聞い
たりしますが、これは昔ながらのショッピングパターン、けしておばあさん
個人ががめついわけではありません。
かっての商店街商法の生き証人ですから「けちくさいな」などとと感じたり
しないように(W

 専門店での買い物はいくら気に入った商品がすぐ見つかっても、念の
ため、他の店に回ってモアベターな商品及び価格のチェックをしたわけ
ですね。

 今日のShopping goodsの購買行動は、当時とは全く異なります。
「買い回り品」は買い回らない、これが当今の買い回り品の購買行動
です。

 いきなり余談になってしまいました。とは言え、小売業の現場というのは
多かれ少なかれ「歴史」を背負って存在していますから、こういうことを
確認しておくことも無駄ではないかも知れません。

 本論です。
 買い回り品=Shopping Goods ということで、「吟味」、「比較」が必要な
商品です。吟味や比較が必要だということは、買い物をする側にあらかじめ、
買おうとする商品に対して「期待しているイメージ」が大いにあるということで
す。期待の中身は色やデザイン、価格、流行性その他さまざまに考えられ
ますが、総称して「期待」としておきます。

 とにかくあらかじめ「買いたいもの」のイメージがあり、なるべくそのイメージ
に近い商品を探し回る、「買い回り」=「探し回り」です。
 ちなみにお客がショーウインドに期待していることは、「お店の品ぞろえが
どういう探し回りに対応しているのか、一目で分かること」です。
 ウインドディスプレイって馬鹿に出来ませんね。

 さらにこの場合の商品を選ぶ基準は「自分の好み」だけとは限りません。
「価格」や「流行」なども大いに関係します。

 次に「買い回り品を買い回らなくなった」のはなぜか?
 高度成長期というのは、人々の行動範囲が広くなり、また買い物行き先に
なる施設(店舗やショッピングセンターなど)もどんどん増えた時代です。
 オーバーストアといわれるくらい店舗が多いなかで確実にお客をつかむ
方法として、品ぞろえのテーマを決めて集荷する、という方向が取られる
ことがあります。セレクトショップですね。

 やがて「この店は私によく合っている」というお店が現れます。「行きつけ
の店」です。
 そうするともう「イメージ」にあう商品を探し回る必要が無くなります。
もし、行きつけのお店にたまたまそういう商品が無かったら? 入荷を待つか、
買うのをやめるか、どこかで間に合わせを買うか、ということになります。
 いずれにしても「探し回り」という消費購買行動はきわめて少なくなっている、
ということです。

 「買い回り」のなかで「自分の好み」ということを最大の基準にして行われる
ショッピングがラグジュアリィですね。買い回り品が全てラグジュアリィでは
ありませんから誤解の無いように。

 「最寄り品」とは何か。
 「必要なときにその都度買った方がお客からみて合理的な商品」ですね。
こういう性格の商品が「最寄り」と呼ばれたのは、かって住まいの近所の店
で買われることが多かったからです。ところがこの分類は間違い、購買行動
に基づく分類ではなかったのです。

 こういう性格の商品の買い物が近所で行われたのは、第一に最寄り商品
を売る店が近所に立地していたからであり、第二に最寄り商品を売っている
店はどこも似たり寄ったりの品ぞろえだったということ、第三に交通手段が
乏しかったこと、これらの要因が重なって最寄り商品は最寄りの店で買う、
という購買行動が見られたわけです。ついでに冷蔵庫が小さかったり普及
していなかった、ということも要因として挙げられます。

 このような定義は、小売側の事情を「法則」と誤解した当時の学者の限界
から生まれています。小売側の事情とは、購買頻度の高い商品群を取り
扱えば商圏人口が少なくとも事業が成り立つところから、食品を中心にした
小売店は、小規模な住宅地でも立地が可能だった、ということです。
 当時は、業種店しか無いわけですから、鮮魚店が成り立つなら精肉も青果
もOK、乾物や軽衣料・・・、と「最寄り商店街」が出来上がります。
もちろんこれらはお客の都合ではなく、小売側の算盤勘定で「自然発生」した
ものです。

 お客は、近くにお店がなければ(他に入手手段が無い時代)、あるところまで
出かけないと何一つ買うことが出来ません。お客は提供されている手段でしか
買い物が出来ません。ただし、複数の手段が提供されると自分の都合で行き
先を選択する、これはショッピングの鉄則ですから覚えておいてください。
こういう当たり前のことが経営上の貴重なヒントになることが間々ありますから。

 さて、最寄り店、最寄り商店街全盛の時代にちょっと離れた立地にスーパー
マーケットが進出してきました。商店街の各店舗とは品ぞろえが全く違い、
「最寄り商品」をワンストップで提供しています。
 スーパーマーケットとは、家庭の主婦が 必要に応じてその都度 必要な量を
入手する という購買動機にぴったりの品ぞろえになっています。

 スーパーマーケットが一店あれば、お客は献立の準備という仕事に必要な
材料を「買回り」せずに調達することが出来ます。これはお客にとって、最寄り
という立地条件とは比べものにならない便利さでしたから、お客は最寄りの店
を素通りしてスーパーマーケットまで足を延ばすようになったのです。
 さらにマイカーの普及と小売側の業態・立地開発の進展で「最寄り商品」の
買物行き先は車立地の郊外にまで拡大され、各種の無店舗小売業の出現は、
「最寄り商品」の購買行動を「商学」の知識体系とはほど遠いところに導いて
しまいました。
商業関係の先生方は整理整頓が必要ですね。

 「必要な都度必要な量を」という購買行動の対象になる商品群が「最寄り品」
とよばれるのは、そういう商品を提供しているのが「最寄り店」タイプの店だけ
しかなかった、という理由からです。近所の住宅地にある店もうちの近所の店
と似たり寄ったり、そうすると、近所を選択するのは当たり前ですからね。
  「最寄り商品」は最寄り店で、買い回り品は買い回り店で、という購買行動
は、小売側の事情による一時的な状況を説明するためにはよい分類でした。

 はじめて体系化した人たちは、商業を理解するためのツールとして考案した
のですが、後継者がこの分類を「法則」的に理解してしまいました。
もっとも「最寄り」ではなく「利便」と命名しておいたなら、SMの登場にも対応
できたのですが・・・。

 以上、買い回り、最寄りといったこれまでお客の購買行動に基づくとされた
商品分類が実は小売業側の事情に基づくものであり、小売側の事情が変わ
ればいとも簡単に崩壊してしまう「購買の法則」だったことを明らかにして
みました。

 こういう「法則」は小売業の世界にかぎらず色々ありそうですね。
世の中で起きていることを観察し、整理整頓・理論化して全体的な理解の
ためのツールを提供する職業を学者と言います。環境激変の時代、先生方
のお仕事の重要性は平時とは比較になりません。新しい業績を立てる絶好
の機会ですが社会とりわけ経済系の学問は、傍目の限り、停滞・低迷して
いるように見えますね。

 ちなみに冒頭で書いたように、米国では最寄り品をConvenience goods と
呼んでいます。コンビニエンスは「利便」であり、「最寄り」とは違いますから
スーパーマーケットも郊外のディスカウントもそれぞれ利便を提供している、
ということでConvenience goodsのほうは今でも実態に即しているようです。
 「最寄り」と見るか「利便」と見るかでえらい違いですね。
歴史的には、スーパーマーケットの利便性が最寄り店を放逐し、最寄り店
の消滅で生じた 非Convenience の解消を事業機会として登場したのが
Convenience Storeです。

ところで。
「最寄り品」であれ「買い回り品」であれ、好きなときに好きなだけ買える、と
いう購買機会が揃っているということは重宝しますね。
「最寄り」も「買い回り」も関係ありません。変な常識にこだわっていると事業
機会=危機を見誤りますからご注意あれ。

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